The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 42



ベッドで上半身だけを起こしているトウコと扉の前で呆然と立っているシャルがお互いのことをじーっと見ている。

2人は時が止まったのかと思ってしまうくらいに微動だにしない。

「トウコ?」

トウコの顔の前で手を振った。

しかし、まったく反応しないのでシャルのところに向かう。

「シャル?」

今度はシャルの顔の前で手を振ったのだが、シャルもまったく反応しなかった。

「もしかして、もうちょっといい感じの時に会わせた方が良かったか……」

「「そりゃそうでしょ!」」

2人が言葉を揃える。

「あ、再起動した。トウコ、シャルが話があるそうだから起きろ。もう10時だぞ」

そう言うと、トウコが壁の掛け時計を見た。

「10時……ちょっと寝すぎたか……いや! いやいや! なんで会長がいるの!? え!? 連れ込んだ!?」

「言い方はあれだが、まあ、そうだな……」

「どうやって!? 男子寮も女子は入ったらダメだよ!?」

あー、そういう発想になるか。

「よく知らんけど、シャルは日本に住んでいるんだよ。前に公園で会ったんだ」

「日本!? 公園!? え? ナンパ!?」

何故にそうなる?

「とにかく、起きて着替えろよ。隣にいるから」

「2人で!? え!? 会長がお義姉ちゃんにぃ!?」

何を言ってんだ、こいつ。

「顔を洗って目を覚ませ、アホ」

「アホはお前だー!」

うるせーなぁ……

「とにかく、部屋にいるからなー」

そう言って、トウコの部屋を出て、呆けているシャルの腕を取ると、自室に向かう。

「閉めれー」

「わかった、わかった。あ、座布団借りるからな。あと、お茶持ってこい」

トウコの部屋から座布団を取ると、扉を閉じた。

そして、シャルを自分の部屋に連れ込む。

「ここが俺の部屋」

「へ、へー……」

シャルは目を泳がせながら部屋を見渡している。

俺は折りたたみのローテーブルを引っ張り出し、座布団と共に置く。

「座りなよ」

「あ、うん……」

シャルがちょこんと座ったので俺も対面に座った。

「正直、昨日の今日だから勉強する気分じゃないけど、こういうのは継続が大事って親が言ってたからやるかー」

「とても素晴らしい考えね……いや! いやいや!」

トウコと同じリアクションだな。

「何?」

「なんでトウコさんがいるのよ!? というか、ここ、ツカサの家じゃないの!?」

シャルが目に見えて、動揺している。

「ウチだけど……」

「なんでトウコさんが寝てるの!?」

「トウコの家でもあるし……」

「同棲!?」

間違ってはいないが、違う意味だな。

「ちょっと待ってろ」

立ち上がると、本棚からアルバムを取り、一枚の写真を取り出した。

「はい、これ」

写真をテーブルに置くと、シャルが写真を見る。

「あら、可愛い……え? ツカサが2人……いや……あれ?」

シャルが写真と俺を見比べた。

写真には5歳の頃の俺達がまったく同じ格好、髪型でピースをしている写真だった。

親の遊びというか、双子あるあるだ。

「こっちが俺でこっちがトウコだな。ほら、こっちの方がかっこいいだろ」

右の俺を指差す。

「うーん、わかんないわねー……え? 双子!?」

「そうだな」

「え? え? あ、さっきトウコさんがお兄ちゃんって……」

「俺が兄だな。双子の兄と姉の定義はよくわからんがな」

先に生まれた方だっけ?

逆だっけ?

「兄妹……」

シャルが写真をじーっと見る。

『長瀬くーん、開けてー』

外からトウコの声が聞こえてきた。

まだ長瀬君、ラ・フォルジュさんで通せると思っているんだろうか?

「自分で開けろよ、ラ・フォルジュさん」

『お茶持ってきたから両手がふさがってるー』

あー、なるほど。

俺は立ち上がると、扉を開ける。

すると、部屋着に着替えたトウコがお盆に乗せたお茶を持って、立っていた。

「麦茶だけどいいかな? それともフランスの人だからワインかな?」

「ふっ……」

シャルが噴き出して顔を背けた。

「何あれ?」

「知らん。とにかく、入れ」

トウコがテーブルに麦茶を置くと、俺と並んで座る。

すると、シャルが眉をひそめて、トウコを睨んだ。

「何?」

「い、いえ……」

シャルはさらに眉をひそめると、チラッと写真を見た。

そして、ぷいっと後ろを向く。

「「何笑ってんの?」」

「ぷっ……ゴホッ、ゴホッ、風邪かしら?」

シャルはわざとらしく咳をすると、こちらを向く。

顔は普通に戻っているが、すぐに写真を裏返した。

「なんでどいつもこいつも笑うのかね?」

「ムカつくよね」

「笑ってないけど、ごめんなさい。なんかパズルのピースががっちりハマる感じなの。よくよく思い出してみると、言動がそっくり」

そっくり……

「どこが?」

「ワインの件はツカサも言ってたし、素の言葉遣いがそっくり」

「「うぜー」」

「……双子芸はやめてもらえるかしら?」

シャルが眉をひそめた。

「お兄ちゃん、なんで会長を連れてきたの?」

トウコがシャルを無視して聞いてくる。

「シャルに勉強を見てもらっているんだよ。いつもはファミレスだけど、今日はウチ。ついでにシャルがお前に話があるって言うから連れてきた」

「話? 昨日の勝利宣言か!? よし、かかってこい!」

トウコがシャドーボクシングをする。

「なんでだよ」

前のめりになったトウコの頭を叩いた。

「あー、なるほど……だからか」

シャルが俺達を見て、頷く。

「何が?」

「いや、何でもないわ」

何でもないわけないと思うんだが……

「まあいいや。ほら、シャル、話せ」

「ちょっと待ってね……その前に聞きたいんだけど、なんで苗字が違うの?」

シャルが自分の額に手を当てながらもう片方の手のひらを俺に向けてきた。

「長瀬は父親の苗字なんだよ。な、ラ・フォルジュさん」

「そうですね、長瀬君」

俺とトウコが頷く。

「ごめん、混乱しそうだから普通にしゃべって」

「えーっと、父親が長瀬の家の人間だから戸籍上は俺もトウコも長瀬だな」

「そうだね。私も本名は長瀬トウコ」

母親も長瀬だ。

「そうなの?」

「家の標識は長瀬だったろ」

「表札ね。標識って……バカじゃない?」

トウコ、うっさい。

「あー、確かに長瀬って書いてた。え? ラ・フォルジュは?」

「母親の旧姓。下にいただろ」

「あ、あのきれいな人……確かに日本人じゃなかったわね…………え? 私、イヴェールを名乗った?」

シャルが眉をひそめる。

「名乗ってたな」

「あちゃー」

トウコが目を抑えながら天を仰いだ。

「というか、ツカサもラ・フォルジュの人間?」

「そうなるのかね?」

「…………え? ラ・フォルジュの人間なのに対トウコさんの特訓をしてくれたの? 私、イヴェールだけど……」

「興味ねーし。ってか、イヴェールなんて知らねーし」

ラ・フォルジュの爺ちゃん、婆ちゃんから何も聞いてない。

「裏切者めー」

トウコが俺の肩を叩く。

「1万円やったろ」

「まあね。服買おー」

残っている2万円じゃトライデントは買えねーなー……

「明るい兄妹ねー……私はラ・フォルジュの家に来たことがショックなんだけど? 唯一の友人がラ・フォルジュで落ち込んでいるんだけど?」

「別にいいじゃん」

「ロミジュリウケる」

ロミジュリって何だよ?

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